低用量ピルについて
- ピルとは英語でpillと書きます。錠剤とか丸薬という意味です。
- 低用量ピルとは、副作用をできるだけ減らすためにホルモンの量を少なくした錠剤の事を言います。
- 低用量ピルには、2種類あります。避妊用に作られた自費で購入するピルと月経困難症、PMS(月経前症候群)、子宮内膜症など病気の治療目的に作られた保険が有効なピルの2種類で、避妊用のピルをOC(オーシー、oralcontraceptive=経口避妊薬)、病気治療に使う保険適応のピルをLEP(レップ、low dose estrogen-progestin=低用量エストロゲン・ブロゲスチン配合剤)と呼びます。
- OCもLEPもホルモンの中身は同じと考えて良いのです。ですから、LEPも避妊効果がありますから、避妊をかねて飲む事ができますが、飲み忘れの時の対応が異なりますので、目的を分けて使用する事が大切です。
- 低用量ピルで特に問題になる副作用は静脈血栓塞栓症(VTE=venousthromboembolism)と呼ばれるものです。静脈血栓塞栓症(これからこの資料の中ではVTEと書きます)とはピルに含まれるエストロゲンの作用で血液が固まりやすくなり、固まった血液が血管を詰まらせ、体に様々な生涯を生じるという副作用です。
その症状は腹痛、胸の痛み、呼吸困難、頭痛、目が見えにくい、呂律が回らない、失神、ふくらはぎの痛み、浮腫などが見られます。 - VTEの頻度は年齢、肥満度(BMI)、喫煙、分娩後の日数などによって異なります。全体としてはおおよそ以下のようです。
ピルを飲んでない女性と飲んでる女性のそれぞれの1万人あたり、1年間にVTEを起こす人数は、非服用者1~5人、服用者3~9人で、飲んでる人のVTEの割合は、飲んでいない人の2~3倍というところでしょう。 - VTEは服用を始めて最初の3ヶ月以内が最も起こりやすいと言われています。従って1度飲み始めたら、どうしても止めなくてはいけない理由のない限り継続する方が安全と言われています。
- VTEによって死亡に至る頻度は概ね10万人に1人と言われ、これは転落事故、溺死、中毒、家庭内暴力による死亡と同じ位の頻度ですから、日常的にはまずあり得ない程度と言えるのではないでしょうか。
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年齢、肥満度(BMI)、喫煙、分娩後のVTEの頻度をお示しします。
⑴年齢
15~19歳のOC、LEPによるVTE発症リスクを1.0とした場合、
・20~24歳:1.32
・25~29歳:1.99
・30~34歳:2.91
・35~39歳:4.01
・40~44歳:5.29
・45~49歳:6.58
となっており、50歳以上は6~10倍となるため原則禁忌(飲んではいけない)となり、ホルモン剤を使用するならホ ルモン補充療法(HRT=VTEリスクは1.7)という別のホルモン剤を使用する方法へ切り替えをする事になります。⑵肥満度(BMI)
① BMIが20~24.9の女性のVTEを起こすリスクを1.0とした場合、BMIによりそのリスクは以下の表のようになります。BMI 20未満 25~29.9 30以上 リスク度 0.4 2.4 5.5 BMI・30以上は、BMIが標準の20~24.9の女性と比べると、VTEの危険度は5倍以上となり、要注意とされています。
② BMIとVTEとの関係では、次のような報告もあります。
BMIが20未満の場合VTE発症リスクは10,000人あたり年間5.8人に対し、BMI 20~24.9 25~29.9 30~34.9 35以上 VTE人数 7.8 16.8 22.0 36.8 BMIの増加とともにVTEリスクが上昇する事が分かります。
⑶喫煙
タバコを吸った(喫煙した)事もなく、低用量ピルも飲んでいない人のVTE危険度を1.0とした場合、低用量ピルを服用した人の喫煙とVTE危険度との関係は以下のようです。
喫煙した事がない人の場合:3.90
以前、喫煙経験のある人の場合:4.83
現在喫煙している人の場合:8.79
タバコを吸っている人が低用量ピルを服用すると、「喫煙もピル服用もない人」に比べVTEの危険度は8.8倍となります。 - 処方にあたっての注意事項
重大な副作用であるVTE(静脈血栓塞栓症)を防ぐため、処方に当たって様々な注意を払っています。
⑴処方前には、問診票で飲んではいけない、或いはより慎重に服用すべき体質、或いは病気についてチェックします。
⑵最初の処方時とその後6ヶ月に1度、血液で肝機能、凝固系検査・Dダイマーを調べ、VTEになる傾向が出てきているかをチェックします。 - 副効用
ピルを服用していると、子宮内膜癌、卵巣癌、大腸癌になるリスクが減少すると言われています。 - その他
飲み忘れ、分娩後あるいは妊娠中絶後のピルの使用開始時期、ピル使用中止後の月経や排卵の回復時期などについては、説明がやや複雑になりますので、その都度来院しお聞きください。